Credit: COP27

中東、中央アジアの排出量削減に対する財政政策の役割

気候変動の緩和に関する戦略を早期に展開することで、パリ協定に対する各国のコミットメント実現を助け、低炭素への転換をより円滑にするだろう

中東および中央アジアの32か国(ほぼすべての国)が、パリ協定の一環として、温室効果ガス(GHG)の排出量削減を公約している。各国はこれらのコミットメントを達成するため、気候政策を国家の経済戦略に早急に取り入れる必要がある。 

IMFの新らたな研究は、同地域に関して過去に類を見ないもので、温室効果ガス排出削減に対するその取り組みを評価し、この目標を実現するための財政政策オプションを特定している。

我々の試算によれば、中東・中央アジア諸国は、外部支援の程度に応じて、現在のトレンドと比べ、2030年までに温室効果ガス排出量を13%から21%削減することを公約している。言い換えれば、同地域では今後の8年間で、1人当たりの排出量を7%削減する必要がある。経済成長を維持しながら、このような削減を達成できた国は一握りに過ぎない。

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同地域の緩和目標を達成するための政策オプションの概要は、温室効果ガス排出量を抑制するための2種類の財政政策と、双方間のトレードオフに焦点を当てている:ひとつ目は、化石燃料の実効価格を引き上げる措置で、ふたつ目は再生可能エネルギーへの公共投資である。

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化石燃料価格の引き上げ

ひとつ目は、中東、北アフリカ、アフガニスタンおよびパキスタン(またはMENAP)にて、二酸化炭素排出量1トン当たり8ドル、コーカサスと中央アジア(またはCCA)にて1トン当たり4ドルの炭素税を段階的に導入することに加え、化石燃料補助金を段階的に撤廃することで、同地域の2030年までの緩和目標を達成できる可能性がある。一部の国はすでにこの方向に向かって動き出している。例えば、カザフスタンは排出権取引制度を導入し、ヨルダンは着実に化石燃料補助金の廃止を進め、サウジアラビアは最近、地域内に炭素クレジット市場を設立した。

化石燃料の実行価格を引き上げることは、現世代がエネルギー転換の負担を引き受けることになるため、短期的には難しい課題である。安価なエネルギーに依存する脆弱な人々や企業は、特に影響を受けることになる。税収や補助金の削減による財政の潤沢は、こうした副作用を緩和する可能性があるが、経済成長は一時的に鈍化し、インフレ率が上昇するかもしれない。

しかし、長期的には、このような移行によって、よりクリーンでエネルギー効率に優れ、競争力のある経済を将来世代に残すことができる。歪みの減少、財政の強化、およびリソースの効率的な割り当てにつながる可能性があるからだ。

再生可能エネルギーへの投資

ふたつ目は、2023年から2030年の間、再生可能エネルギーに対する公共投資額をMENAP地域では7,700億ドル、CCAでは1,140億ドル(同地域の現在の国内総生産の5分の1以上)増やすことで、化石燃料補助金の削減を3分の2にとどめ、炭素税を一切課さずに、同地域の排出削減目標を達成できる可能性がある。同地域では、大規模な再生可能プロジェクトがすでに進行中である。例えば、カタールは世界最大の太陽発電所を開発し、その800メガワットの発電能力は同国のピーク需要の約10分の1を満たすことができる。ドバイは5,000メガワットの単一敷地の太陽公園を建設し、同類プロジェクトの中では最大級に当たる。

このオプションは、現世代にとって幾つかの利点がある。価格上昇がより小幅にとどまることから、家計や企業にとって、エネルギー消費の習慣を変える圧力がそこまで大きくない。さらに、再生可能エネルギー源への対象を絞った投資は、石油輸入国のエネルギー安全保障を向上させながら、雇用を増やし、経済成長を加速させることができる。

しかし、このアプローチには長期的なコストも伴う。残存の化石燃料補助金はエネルギー価格を歪め続ける公算が高いため、エネルギー効率の向上を抑え、経済の多くの部分でなおも排出量が高止まりする可能性がある。エネルギー転換を加速させるための公的支出が大きいと、財政の地位が弱まり、マクロ経済の安定性が損なわれ、将来の世代が利用できるリソースが減る可能性がある。

IMFの試算によれば、2030年の政府純負債は、MENAPではGDPの12%、CCAでは15%増加する可能性がある。このため、スムーズな転換は、将来世代にとっての長期的な成長率の低下につながる可能性がある。

今こそ行動に移す時

同地域の政府は、気候変動緩和のための経済的負担を世代間でどのように分配するのか、という難しい決定に直面している。これらの財政戦略の他の組み合わせを用いても、各国は排出目標を達成できる可能性がある。自国の状況と利用可能な予算資源に最適なオプションを選択すべきである。どの選択にしても、財政戦略を早期に採用することが、経済的混乱の可能性を最小限に抑えながら、気候変動緩和に関する公約の時間通りの達成に資することになるだろう。

早期の開始により、国内での一般公開、予想される政策変更に対する民間部門の適応、および当局による副作用への対策実施(社会セーフティネットの改善含む)のために十分な時間を確保することが可能となる。

最後に、早期開始は他の政策や構造改革を推進し、同地域の各国がより環境に優しい経済へとスムーズに移行できるよう支援する。